旧臘
嬌声をあげそうなほど艶々としてしまった道路を走って行く車
冬の寒さで使う筋肉と防寒のために動きの鈍くなった身体、その身体は無関心に視線だけで恐恐と過ぎていく車のタイヤを見つめる
踏めば踏むほど、嘘みたい、一晩でこんなことになって、私はわたしの身を守るような靴の買い方をまだ覚えていない
やや幅のあるヒールを一歩ずつ突き刺しながら、早く抜かしてと念じ、追い抜く背中を見てその堅強な足さばきを持たない自分が情けないと詰り、マフラーの中で口呼吸を続ける
コンクリートの見えかけた部分を避けながら、うっかり騙されて足を取られないよう、帰路を歩く
嬌声
強く固められ美しくなった昨日の雪は、確かに白かった
バリアフリーなんて考えがまだなかったころ、奇抜なアーティストがデザインしたインテリアなのだ
愛されるけれど、それは触れてみたい切望に似た愛されかたで、抱きしめ、手を繋ぎ、くつくつと言葉を交わしたいというような愛されかたはしない
帰路
ああ、誰も彼も前を見ない
こんな不安な道で不安な身体能力しか持たない私は、見栄を張って前を見つめる
撫でたらかさかさと乾燥した指に意地悪をしそうな濃灰色のコートの揺れを少なにどんどん距離を近くするサラリーマン
よくそんな格好でこの寒さの中を、と思いつつ、人のことを言えた格好でもないかと考え、いやこれは第一印象の問題だ、と考えながら見つめたOL
頑なに隣に並んで歩くのをやめない、雪が積り凍ってさえなお、未だにコートは着ずにマフラーを垂らす高校生
春の咲くのの待っているでもないくせに、下ばかり見て、本当はちらりと見たこちらを知らんぷりをする
私は避けるのだってこんなに恐る恐るで、ふざけないでよね、と目付きとマフラーの中で消化をする
冬の人恋しさに、人々の態度に、私のいっそう強張っていくのが余計に耳を震わすようで、いけないいけないと振り払っても、きっと鼻頭からとうに赤くなっている
こんなときに隣にいてくれないなんて恨むわよと、いない人に向かって憎まれ口を聞いては、馬鹿みたいで可笑しい気持ちが着飾りなく生まれる
やっとマフラーの奥で口角があがり、余裕が着飾る余裕を得、花を買って帰ろうなどと目論見を始める
早く帰られた程度のことで、そう、花を買って帰るような人間になろうとしている