parole Jouet

見たり聴いたり、嫌だったり素敵だったりな小品文

緑化

暖かいねと笑う裕福な穏やかさがあった、おそらくひと月ほど前を思っては、汗でへばり付く服をはたはたと扇ぐ。バスを待つのにぼうっとしていると、風に吹かれて緑が次々と頭上から落ちてくるのが見える。ぱた、ぱた、と鳴るのが聞こえ、葉の重さを感じる。光に照らされ、コンクリートさえ良いものに見えてくる、不思議な気持ちに襲われた私は、悲しみを感じる隙ができていると気が付いた。冬のそれとは決して同じではないと、気温が高まっていく頃に必ず出会うこの感覚が何なのか、私はまだ理解を持っていない。

5月4日 東京文フリにて

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ふりっぱんとせぐめんと
今回の冊子はナオイさんが表紙を手掛けています。
詳細についてはサークル主、夜空のブログで見るが易し。
通販有。よろしくお願い致します。
 
これまでで計三回の寄稿となり、出来としては今回が一番かと思われます。直せる部分はまだ多いですが、過ごしていく中であった心情の変化が筆の進みを邪魔し、結果としてはそれが良かった。読み返す気になれるくらいにはできたと思えている。
 
今回 同じ冊子で参加をした方に、また他の件でお誘いをいただき、とても幸福な状態。人と繋がる良さを思い知らされるようです。頑張ります。決定しましたらまた。

戯れ

しばし大人しくしようなどと思ってみたり、五月 その緑鮮やかなのを人は紅葉ほど喜ばない恨めしさに、別れ その錯覚から目を覚ました興奮と憤りに無の振りをし、あなたの声 君は台風の目だという言葉に笑む夜、昼間は夏を、夜には秋を、明日の雨を、ひたすらに過ごす

職場より

週末は、久しぶりにラジオを録りたいと思っています。そんなわけで、帰ってしまおうかという気持ちと、ここでやっておかなければ大変なことになるわという気持ちがせめぎ、こんなことをしたためているに至ります。

空白より

1、心情の大きな変化を確実な形に。

2、決めることを決めもせず都会への出陣のため切り詰めた生活を。

3、仲の良いわりに初めての対顔と、絡みのなかったわりに楽しく喋る良い心地。

4、泣くも笑うも一番の振り幅を好んだ場所で精一杯に。

5、亡くなった祖父の葬儀で抜かりある作法は、痛ましく。

6、兄の喪服はどこかセクシーだと馬鹿を言い。

7、寄稿したことは非常に良いことだったと、感想ではない感想をもらった興奮で湯浴みを済ます。

強欲

てふてふという文字のままの似合う蝶が、菜の花と間違えるような振る舞いをする頃、身体を守るか、春を装うか、そんなことばかり朝には悩みます。冷たい風に吹かれても、雨が花を濡らしにきても、電車を降りて家までの道を歩き始める頃にはよく晴れている日々です。さして建物は高くもなく、一番に強い光が車のライトだという程度の街ですが、道の途中で、空が一番にひらける場所があります。そこで私は、寒い時には暖かさを、暑い時には涼しさを感じます。空を見遣ると、月があり、私は足取りをつい軽くしてみたくなります。本当は、月の周りで星がどうしているか眺めていたいのですが、つい気持ちを軽くして、その場所を突き抜けてしまいます。そこを歩くときの私はとてもしなやかだと、自分で言うのもなんですが、そう思うのです。気持ちも身体も、自分の一番気に入っている自分になるのです。とても良い気持ちで、誰かに伝えたくなるのですが、誰か、などということはなく、やはりあなたに伝えたくなります。こんなお話をしても、あなたに何かを与えることができたり、あなたの何かを育むものではないのですが、ただあなたに聞いてほしいと、その気持ちごとお伝えしたくなります。

うっぷん

鬱憤を溜めるのは得意でも吐き出すともう止まらないから溜めても出さないそれが理想
しかし人がそうしていたら愛のある不愉快を感じる(好意のあることを前提に)
なぜでしょうね、こういうことってありますよね、ああそうだねでも私はね、そうかそういう風にもなるのねなんて、最後に気持ちの軽くなることばかりであれば、勇気もたいして必要にない
翌朝の鏡に映る瞼が正常ならば吐き出してしまうことに何の不都合もない
大人になってからの「不器用だから」は甘えだ、という台詞を何で見たかは忘れても、私は不器用なのではなく不愉快な人間なのだと頭に覚え込む、疲れる
「疲れる」も「疲れた」もどこに位置していようとそうそう口にしたくはないのに、それを呼吸の軽さとともに吐けない「不愉快」な態度は鼻に付く、不愉快な人間
「心を開く」という煙たい言葉に理由を発見する、私の高いプライドは捨てる必要があり、今それを理解したままで前へは進めていない
分かること、自分の感情、分からないこと、嫌いなものを嫌いな理由
固有名詞のあるものに好きだ嫌いだとするのはひどく難しく、簡単に固執もできない、群れて和やかにもいられない、たった今のそれが好きだったという感情で動くのはどうも幼稚なようだから、あまり強い感情を持ちたくないと思うのに、たぶん、女であることも、「不愉快」な性格を意識してしまうことも加味し、持ちたくないと思えば思うほど、強く強く感じるようになる
好きな人、恋のある人、親しみのある人、いつだって好きなら人は平和だったけれど、嫌いだという感情をそのぶん嫌いなままにしておくしかないのなら、私では器用に扱うことは不可能なので、やっぱりそのまま、理解したものの、というこの点でしばらくはどんな線も描けずにいるのだろう

温泉

三連休。私は温泉に訪れました。

 

ひどく寒い季節、雪の道にややもすると一生をここで諦念したいと願ってしまうのではと思われるほど、しかしその景色と心は賞翫に値するもので、落ち着かないのは旅の楽しい証拠。

二〇を越えれば時間の早くなる老いを笑い草にすることが軽率に思われるほど喜ぼうとする旅の舞い上がりと冬の寒さ。

こんなにも苦痛に感じられる寒さ、明日からこうして過ごすことはできない。

笑えばからりと寒さを忘れるようで、怒ってみればずしりと寒さに与るようで、しんとして歩けばその寒さはなんて正しいのだろうと言い包められるようで、おかしかった。身体は痛い痛いと寒さを恨みそうだというのに、あなたを笑わそうとしたり、あなたに気付かせようとしたり、あなたに応えようとしたり、元気なものだった。

思春期とは体と心のズレだという文章を思い出し、今の私は思春期だと思い付き、おかしかった。生きるための本能が寒さに屈してしまわぬように感情を生んでいるようでもあり、そのためにあなたを不愉快にさせる稚拙な自分は滑稽でしか無いが、温情に恵まれたころにはまた感情を新たにしてしまっていた。

 

不安定さに不衛生なことの一つもなく、旅の疲れに自然とまどろむ目は、平和なもの。

未来を語る余裕が出るなり、真面目な口角に考えをまとめる指先。旅は時間の限りあることを無意識に確認させるらしく、もう少しそっとしてあげたら良いのにと思うなどする。するわりにどうも未来を約束したくなる。それを私は馬鹿馬鹿しいと思っても、話さなければそれまでだというのは、実際その通りだ。際限なく抱いて欲しい欲求。思春期とはいえ、大人だから上手に話せるでしょうとテンポを取り始める。それにはやはり寒さは邪魔だから、暖かい部屋で二人は寄り添わずに教え合いましょう。

 

温泉の情緒に撮り収められない景色、合わせて自分の佇まいを演出していく気持ちの易さと伝えきれない心慮。旅を終えたら一緒の思いになりたい、家が一番ね、ということ。

【第5回】ただいまここ❐らじお


【第5回】新しい職場・映画・成人式【再掲】: ただいまここ❐ラジオ